京都丹波栗 ぽろたんChestnut

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京都丹波栗
ぽろたん藤原 孝一さん

ブシューッという音と共に圧縮された蒸気が辺り一面に濃い霧のように漂う。それと共に、なんとも香ばしい栗が焼けたいい匂いが熱と共に漂ってきた。

藤原孝一さんが育てた丹波栗を、藤原さん自身が圧力栗焼き機で焼き上げた栗だ。火傷しないように熱々の栗をつまむと、明らかに大ぶりな栗の皮がパカッと剥きやすく割れ、黄色い果肉が顔をのぞかせている。

ホカホカに湯気を上げる可愛い焼き栗を頬張ると、一瞬、目を見開いてしまった。

「甘いっ!」

栗は多量にでん粉を含むもので、ポクポクとした食感は楽しめるものの、舌に触れた瞬間に甘いと感じるものではない。でも、藤原さんのぽろたんは、はっきりと舌に甘さが残り、ホクホクしながらもしっとり感があって、次から次へと口に運んでしまう。

エエもん認定の審査員である、農畜産物流通コンサルタントの山本謙治氏の脳裏に、2020年度の審査会での光景が甦る。藤原孝一さんが「これ、うちの丹波栗の焼き栗、食べてみて欲しいんです。」と出してくれたのだが、山本氏は内心、「栗かあ」と独りごちたのだ。実は山本氏、ホクホクしたでん粉質のものが苦手。サツマイモやカボチャ、そして栗はめったに口にしない。ところが、藤原さんの丹波栗の焼き栗を口にした途端、その美味しさに心の底から驚いた。気づけば、小さな紙袋に入った焼き栗を5個、6個と食べ進んでしまっていた。他の審査員、フレンチシェフの杉本敬三氏も、地域商品コーディネーターの溝口康氏も同様に「甘い」「おいしい」とつぶやきながら、栗を食べ進んでしまっていた。

かくして2020年度の「福知山市のエエもん」に認定される運びとなった藤原氏の丹波栗は、いったいなぜこんなにも審査員の五感に響いたのだろうか。そのポイントはいくつかあるのだが、重要なことは➀焼き栗に向き、粒が大きな品種を選定したこと、➁氷蔵庫内で熟成することで、甘さを引き出していること、➂ジョイント栽培によって品質よい栗を多収量で早期に収穫でき、かつ省力化できるということ、と言えるだろう。

藤原さんが栽培する栗は様々だが、エエもんで認定されたのは「ぽろたん」「ぽろすけ」「美玖里(みくり)」の三種だ。ぽろたんとぽろすけは、その名前からなんとなくおわかりの通り、渋皮がポロリと剥きやすいということで話題になった栗の品種だ。そもそも和栗は、ヨーロッパや中国の栗と比べると渋皮が剥きにくい。そのため、海外では街角で栗を焼いてその場で売る屋台が賑わっているのに、和栗でそうしたことを行うのはなかなか難しかった。その代わり、海外の品種に比べると明らかに風味がよいというのが日本の栗の位置づけだった。

「ぽろたん」「ぽろすけ」は、そこに一石を投じた品種だ。国の機関である農研機構が開発したこれらの品種は、渋皮がポロンと剥けるため、焼き栗にして食べやすいという特徴を持つ。

「福知山は丹波栗の産地だけど、消費者に直接焼き栗を食べさせる人ってほとんどおらんのですよ。でも、ぽろたんやぽろすけなら、あまり時間をかけずに焼き栗ができる。食べたらみんな「おいしい!」って言ってくれる。だからこの品種がいいんです。」

その言葉通り、藤原さんは精力的に福知山市内の各所で開催されるイベントなどで、焼き栗機を回してできたての焼き栗を販売して回っている。

次のポイントが、氷蔵庫での熟成で甘さを引き出していることだ。

氷蔵庫とは、従来の冷風を対流させる冷蔵庫とは違い、壁の中に冷却水を循環させることで庫内を冷やす技術だ。これによって、庫内全体が均一に冷却でき、また湿度を100%に保つことができる。この氷蔵庫内をマイナス2℃にし、栗を保管しておく。

そうすると、栗の中にいることのある虫を殺虫することができる。しかも、それを数週間~数ヶ月間長期保存することによって、栗のでん粉質が糖分に代わり、甘くなるのである。
「氷蔵庫に入れることで、美味しい栗を安心して食べられるようになるんですわ。」と胸を張る藤原さんであった。

そして三つ目のポイントがジョイント栽培だ。

藤原さんが栗を栽培するのは、夜久野町にある祖父から引き継いだ栗園だ。2ヘクタール弱の土地に、およそ1000本もの栗の木が植えられている。その畑の中で、近年試しているのがジョイント栽培による栗生産だ。

ジョイント栽培とは、果樹の栽培技術として全国的に注目されいてるもので、簡単に言えば、隣り合う果樹を接ぎ木で繋いで栽培するというものだ。このため、ジョイント栽培の果樹畑を観ると、「あれっ全部つながっているぞ!?」と不思議な光景が広がっている。

このジョイント栽培によって得られるメリットはいくつかある。まず栽培が楽になるということだ。通常の栗は背丈がどんどん高くなっていくため、枝の剪定や収穫時に、一本の樹だけで手間がかかってしまう。また、当たり前の話しだが、高所での作業は危険を伴う。その点、ジョイント栽培は樹高を低くでき、連結されているため横に移動すればよく、作業性がよいのだ。

農家の高齢化が進み、戸数がどんどん減る中で、省力化できることはとても重要だ。しかし、単に省力化だけがメリットだとしたら、美味しさにはつながらない。ジョイント栽培にすることによって枝を整理することができるため、葉が日照をたっぷり受け取ることができる。光合成をしっかりすることで、栗の実が充実した大粒になるので、これは大事なことだ。

もうひとつ、栗の収穫までの期間を早められるということもある。「桃栗三年柿八年」とあるように、桃や栗は植えてから収穫までに三年はかかると言われてきた。ジョイント栽培でも、樹を定植してから最初の収穫に三年はかかるものの、その後の収穫量は通常栽培よりも段違いに早く、多くなるそうだ。

このようによいことづくめのジョイント栽培だが、新しい技術体系であるため、一から造成する必要があり、その導入には手間とコストがかかる。しかしここでも藤原さん独自の経営ポイントが光る。

じつは藤原さん、ねっからの農業者ではなく、工務店を営む身でもあるのだ。

「僕はねぇ、大工なんですよ。だからこの氷蔵庫の施設周りもぜーんぶ自分で作ってます。ジョイント栽培に必要な工事も自分でできちゃいます。だから、僕にはうってつけの仕事なんですよ。ただ栗の樹高が低いので、シカやイノシシが栗を食べに来ちゃうので、それの対処が大変なくらいかな。」

そんな藤原さん、なんと2022年に兵庫県と京都府の合同開催となった丹波栗の品評会に「ぽろたん」を出品したところ、なんと優賞してしまった。この品評会では、栗の大きさや形だけで選ぶのではなく、そのおいしさを評価するものだったそうだ。審査員一同、「藤原さんの栗をエエもん認定しておいて、間違いなかった!」とホッと胸をなで下ろす結果となった。

名実ともに丹波栗名人となった藤原さんだが、だからといって浮かれているわけではない。

「美味しい丹波栗をどんどん生産して、消費者の人達にもっと食べてもらいたい。京都市内の有名店とかから、注文されることも増えてきたけれども、本当は直接、お客さんに食べてほしいんですよ。」

もし、これから福知山を訪れることがあるなら、どこかで藤原さんが焼き栗を焼くイベントがないか、探してみて欲しい。きっと、これまでにない丹波栗の体験ができるはずだ。

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