溶けにくいアイスクリームZuTIce Cream ZuT

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溶けにくい
アイスクリームZuT(ずっと)
奥京都苺ソース株式会社中庄本店

コロナ禍の影響でリモート開催となった2021年度のエエもん鑑定会において、審査員の三人の頭に「???」と疑問符が並んでいた食品が、このZuT(ずっと)というアイスクリームだ。なにせ、うたい文句が「“ずっと”溶けにくいアイスクリーム」ということなのだから。なぜ溶けにくいのか、なぜ溶けないことが売りなのか。また、このアイスクリームを開発した中庄本店という会社は、食材の卸売業者を本業としている。流通に携わる会社が食品を開発したということになるのだ。いったいどんな狙いと想いがあって、このZuTが造られたのだろうか。そして、一番大切なそのアイスクリームの味は、、、?

「じつは、溶けにくいアイスクリームがあったらいいなというニーズは、病院や介護の現場などで、私たちが感じたものなのです。」

というのは、中庄本店で管理栄養士として活動する藤井由香さん(写真左)だ。同社の主軸は食材の卸売業だが、食品企業や学校、介護施設といった顧客をサポートするために、日本栄養士会から認定を受けた「中庄本店認定栄養・ケアステーション」を開設。管理栄養士が三名在籍している。この栄養士三名のチームがなぜ溶けにくいアイスクリームが「あったらいいな」と思ったのか。

「摂食嚥下障害を起こした方は、食事や水分をうまく食べることができないことがあります。そうした方はゆっくりと食べる必要があるのですが、普通のアイスクリームはすぐに溶けてしまうため、楽しむことが難しいんです。また、そうした障害がなかったとしても、病院や施設の給食でアイスクリームをデザートにしようとすると、配膳に時間がかかるため、食べる時には溶けてしまっているということもよくあります。溶けにくいアイスクリームがあれば、そうした問題があったとしても、あせらずにゆっくり楽しんでいただけると思ったのです。」

なるほど、この世界には確実に、溶けにくいアイスクリームへのニーズは存在しているのだ。藤井さんはこのアイデアを中庄本店の社内ベンチャー事業のプロジェクトに応募。見事に採択され、商品開発を行った。

それにしてもいったい、溶けにくいアイスクリームとはどのようにして作ることができるものなのだろうか。なにかしら、化学合成された添加物を駆使して得られる性質なのだろうか。

「いいえ、このアイスクリームには天然由来のものしか使用しておりません。溶けにくいアイスクリームを実現するために使用したのは、イチゴ由来のポリフェノールと海藻から抽出した成分です。」

イチゴポリフェノールには、水と油の結びつきを強くする性質がある。アイスクリームは氷の水分と油脂分が乳化した状態で冷え固まったものなのだが、温度が上がるに連れて氷が溶けて水分と油脂分が分離し、形がなくなってしまう。しかしイチゴポリフェノールと、同社が試した海藻成分を加えると、氷の結晶と乳脂肪の結びつきが強くなることで、溶けにくくなるのだ。

「ZuTは、気温35度の状態で1時間、形状を保つことができます。市販のアイスクリームだと、15分程度で溶けて形が崩れてしまうところです。アイスクリームを口に入れたときにトロリととろける、あの食感が好きという方にゆっくりと楽しんでいただきたい。嚥下障害の方のデザートにはゼリーやプリンが出されることが多いのですが、そうした方にもアイスクリームを食べていただきたい。それが、このZuTなら可能なんです。」

たしかに、この記事のためにZuTを陽射しが差し込む夏の日に撮影したのだが、おいしそうに溶けかけたタイミングで撮ろうとカメラマンが待つのだが、いつまで経っても表面が溶けてこない。

結局、30分ほど待ってもあまりみためが変わらないため、そのまま撮影したという。それほどまでに形状に変化が出にくいアイスクリームなのだ。

しかし、「溶けにくい」という性質だけでは食品としては不完全だ。そこにおいしさがなければ、アイスクリームとして売れるということがないわけだから。しかしその点において、このZuTのアイスクリームはエエもんの審査員から高い評価を得たのである。

「このアイスクリームのうたい文句が『溶けにくい』なのですが、食べてみて感じたのは、とてもおいしいアイスクリームだということでした。」

というのは、大手百貨店で食品バイヤーを務め、現在は全国の産地で生産者が高品質な食品を開発・販売できるための支援を行う溝口康氏(株式会社ネイビープランニング)だ。

「とくに苺ソースのさわやかな香りと酸味が、高品質なミルクアイスクリームと相性がよく、これは素晴らしい味だと思いました。藤井さんがおっしゃるような嚥下障害を持った方だけではなくアウトドアで楽しむなど、広範な人達にアピールする商品だと思います。」

このおいしさの秘密はなんだろうか。じつはZuTの製造は、ジャージー牛の搾りたてミルクでアイスクリーム製造を行う、京丹後の「ミルク工房そら」が担当している。

ジャージー牛の生乳は乳脂肪分がリッチで、おいしいアイスクリームができることで知られている。お世辞にもアクセスがよい立地にあるとはいえない同工房だが、毎日ひっきりなしにアイスクリームを食べに来るお客で賑わっているのだ。

ところで、エエもんの審査に提出されたZuTは三種類ある。

一つはジャージーミルクの生乳と生クリームを贅沢に使った「ジャージーミルク」。スイスのチョコレートメーカーから仕入れた高品質なカカオ豆を用いた「ホールフルーツチョコレート」。そして、福知山市内で生産された苺を贅沢にソースにしジャージーミルクアイスにかけた「奥京都苺」の三種だ。

じつはジャージーミルク味もチョコレート味も、実においしいアイスクリームにできあがっており、審査員の三人は悩みに悩んだ。その末で、「奥京都苺」をエエもんとして認定することにした。

「『奥京都苺』は福知山市内の小学校の廃校で、イチゴ栽培をするThe610BASEで生産されたイチゴを使用しています。シーズン中に毎日出荷されるイチゴの中で、味やよく糖度が高くても形が不揃いではじかれるものなどを冷凍してもらい、この商品のために仕入れています。このイチゴがとてもおいしいので、添加物など使わずにソースにしています。」

ということで、福知山の味わいをしっかり表現できるのは、この三製品のなかで「奥京都苺」だろうという審査員一同の所見だったのだ。

ただ、ジャージーミルク味とチョコレート味の完成度も実に高く、「溶けにくい」という性質を差し引いたとしても食べてみたいと思えるものであることも満場一致。ZuTに関心を持たれた方はぜひ、この三種類すべてを食べていただきたいと思う。

中庄本店ではこのZuT(ずっと)を、アイスクリームの三商品のみならず、同社が独自開発するブランドとして展開していくつもりだという。企画・開発者である藤井さんをはじめとする、人に対して温かで優しいまなざしを持つ人達が、これからどんな食品を世に問うてくれるのだろうか。次なるエエもん認定に向けて、楽しみにしたい。

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