朝堀りたけのこBamboo Shoot

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報恩寺産
朝堀りたけのこ報恩寺たけのこ生産グループ

京都はタケノコの美味しい産地として全国的に知られている。嵯峨野や大原野、大枝塚原に西山といった地域が有名だが、じつは密かに、それらに負けずとも劣らぬ産地と言われるのが福知山市の報恩寺地区だ。

ちなみに報恩寺と書いて「ほうおんじ」とも読むが、地元の人達は「ほおじ」と呼ぶ。この報恩寺地域のタケノコが、福知山の人達にとっては春のご馳走。生産グループの直売施設では3月後半から5月始めのシーズン中、生産者が掘り出したタケノコが並び、市外から買いに来たお客さんで賑わうのである。

「もうね、報恩寺のタケノコは本当においしいんです。甘くて香りがよくて、うちの店でもシーズンになると取り寄せて、お客様に大好評をいただいています。」と、エエもんの審査員でもある新橋「ラ・フィネス」の杉本敬三シェフも太鼓判を押す。

報恩寺ではおよそ200年前から孟宗竹のたけのこ栽培が始まったとされる。その特徴といえば、たけのこ特有のえぐみやアクが少なく、実に美麗な味わいだという。おおよそ、たけのこの特産地ではそのようなことがよく言われるので「またか」と思うところだが、報恩寺の竹林に足を伸ばしてその光景をみれば、他の土地との違いがすぐにわかるはずだ。

報恩寺でタケノコを生産するのは80人ほど。この時は河田安雄さんの竹林に入らせていただいた。竹林といっても、平たんな場所にあるわけではない、お家の裏の小高い山に上っていくと、足もとはみごとに赤土だ。

遠目からみてもオレンジ色というか、鮮やかな赤土の色の斜面に、竹が綺麗に間隔を置いて育っている。

その間の地面に、しるしのようなものが刺さっていて「これはなんですか?」と尋ねたら、「そこにタケノコが出てくるんだよ」という。といっても、私たちにはただの地面にしか見えない。プロでなければ、ここから出てくると見分けることができないだろう。

「じゃあ試し掘りをしてみよう」と河田さんが手にしたのが、細くて長い一本歯の「トンガ」と呼ばれる鍬(クワ)。これを使ってザクザクとまわりを掘り、あっというまにタケノコに到達。

「まだ小さいなー」とのことだが、料亭で使われるような高級タケノコが掘り出された。

「どんな風にして食べるんですか」
と尋ねると、やはり真っ先に出てくるのが「タケノコご飯か、ワカメと炊いたんかなぁ」とのこと。ということで、いただいたタケノコを自宅でタケノコご飯と煮物にした。

報恩寺のタケノコを食べたのは初めてなのだが、とにかく舌触りが上品だ。そして、関東の産地で掘られたタケノコと比べ、悔しいほどに甘みがあって、また香りがいい。タケノコご飯には、その甘みと香りがよく移っていた。

そして煮物にしたものは、写真のように分厚く切っているのに、歯がサックリと楽に通っていく。筋張ったところがまったくなくて、心地よい触感だ。歯の通ったところの繊維の密なことが、みてとれるだろう。

タケノコも場所によって味わいが違うものだが、報恩寺地区の赤土のおかげなのか、とても味に深みを感じるのだ。

この味を得るため、報恩寺のタケノコ農家さんは、一年を通じて竹林を綺麗に管理している。綺麗に雑草を抜き、タケノコを掘った後の穴には鶏糞などの肥料を入れ、大きなタケノコができるように根に養分を蓄えさせる。また、新しい竹が生えてこられるように間伐したり、雪で倒れたりしないように上の方を切ったり。竹が日光をたっぷり浴びることが出来るように適度に竹を間引きます。もちろん季節に応じて肥料をやって、そうして一年経つと、おいしいタケノコが出てくるわけだ。

さて、今回タケノコを掘るところを見せていただいて、とても感動したのは、とにかく竹林が綺麗に整備されているということ。その一方で、京都でも放置竹林と呼ばれる、手入れをされていない竹林が増えていることを河田さんも懸念しておられた。

丹波地方のみならず、山林をもつ地域では、戦後、収益性が高いタケノコ栽培が盛んとなって、孟宗竹を植えてきたそうだ。ただ、いまでは輸入タケノコが安値で入ってきたこと、竹を利用した製品、たとえばカゴや竿竹といった製品も使わなくなってきていることで、利用されなくなっている。そうなると、竹林の持ち主も竹を使わなくなり、手入れをせず放置するようになってしまう。

孟宗竹は生命力が強く、根を浅く横に伸ばしてどんどん増えていく性質をもっている。タケノコを掘らずに放っておくと、それが竹になっていく。しかし、放置しておくと密集しすぎて、十分に陽が当たらないくらいに繁茂してしまう。しかも竹は他の植物より背が高いので、放置竹林には竹以外に何も生えないという状態が多いのだ。そして最後には、密集した状態で竹が腐って、倒れてしまう。

それだけではない、斜面に竹林が形成されてしまうと、土砂崩れしやすくなるそうだ。雨が降ったときに、通常の樹木は根を深く張っているので踏ん張れるが、竹は根が30センチほどの浅さにしか張らない。だから豪雨になると、竹林ごと斜面を滑り落ちてしまう可能性があるのだそうだ。いま、こうした放置竹林が全国的に拡がっているが、ここ報恩寺でも問題になっている。

「いまは80人の生産者でなんとか竹林を手入れしているけど、これからどうなるか。まあ、やれるだけやっていきますよ」と仰る河田さん。

私たちにできることは、報恩寺のタケノコの美味しさを伝え、そのシーズン中に味わっていくことだろう。
報恩寺のタケノコは、3月下旬から5月上旬の、極めて限られたシーズンしか出回らないご馳走である。もしこの季節に福知山を訪れる機会を作れるのであれば、なんとかして早い時間に、報恩寺地区の出荷場を覗きに来て欲しい。その美麗な味わいを知れば後悔はしないはずだ。

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