丹波栗Tamba Chestnut

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大粒で糖度高く、
味わいの深い絶品の丹波栗秦 貴一郎さん

福知山も含まれる丹波地方の名産品は多いが、その重要な一つが丹波栗だ。その歴史は古く、西暦720年に書かれた日本書紀にも丹波栗らしき記述があり、927年制定の延喜式では丹波が朝廷に栗を納める有力な産地として記載されている。言ってみれば、丹波は栗の本場というわけだ。

福知山で丹波栗の産地といえば、高原地帯である夜久野町だ。ここで丹波栗を生産する秦貴一郎(はた・たかいちろう)さんが、第一回目「ふくちやまのエエもん」審査に応募。審査当日「蒸かしただけのものが一番、味がよくわかりますから」と、蒸かした栗が審査員の三人に回される。掌に置くと、ズシリと重みを感じるほどに大粒だ。ともに「大きいね!」と嘆息したのち、スプーンで栗の実をすくい、口へ運ぶと、審査員のひとりである杉本敬三シェフから「甘いですね!」と声が挙がった。

明らかに強い甘みを感じるだけでなく、栗特有のまろやかな香り、そしてしっとりした肉質が舌に心地よい。舞台裏の話をすると、審査員一同が満場一致で秦さんの栗を「認定に」と推したのである。

おいしい丹波栗を
世に出すための地の利とは

 秦さんの丹波栗がおいしい理由は、大きく言えば3つある。それは地の利、栽培技術の妙、そして収獲後の手当である。まずは福知山の中でも山間部にある夜久野町という地に、利があるのだ。

「僕は2009年に大阪から福知山に移住して、夜久野で新規就農しました。当初から、やるなら果樹だと考えていたのですが、夜久野町の自然条件がが果樹栽培に最適だったので、この地を選んだのです。」(秦さん)

おいしい農産物を育てようとしたとき、重要なのは昼夜の寒暖差だということはよく知られている。植物は日中に暖かな陽をたっぷり浴びて光合成を行うが、日が暮れてから温度が下がることで、日中に生成したエネルギーを植物内に蓄積することができる。そうして甘味やうま味が豊富な作物ができるわけだ。ただ、地球温暖化の進行で寒冷地の気温もグングン上昇している状況で、昼夜の気温の差があまり生まれない産地が増えている。そうした場合、せっかく光合成で生成されたエネルギーが夜間に消費されてしまうため、おいしさが蓄積されないのだ。その点、夜久野町ではまだ昼と夜の寒暖差が大きい状況を保っている。

夜久野町の地の利はもうひとつある。

「夜久野町は霧が濃いんです。朝11時くらいまではだいたい、霧に煙っていますね。この霧がもたらす潤いが、作物をおいしくしてくれます」(秦さん)

たしかに、福知山の市街地が晴れている状態でも、朝の夜久野町に上ると「雨が降るのか?」と思うほどに視界が曇ることが多い。いつしかスウッと視界が開け、青空が拡がることで「あれは霧だったのか」と合点がいく。「丹波霧」とも呼ばれるこの霧の存在が、丹波の作物をおいしく包んでいるのかもしれない。

栗と地域の循環を考えた
秦さんの栽培技術

秦さんの丹波栗栽培の技術で重要なことが、循環を大切にするということだ。基本的に秦栗園では、化学肥料と化学合成農薬を使用しない。では、栗の生育に必要な養分をどこから得るのだろうか。

「わたしの栗園では、栗の木の下に生える草をわざと繁茂させることで土壌を豊かにする『草生栽培』を実践しています。下草に生えるイヌムギなどの雑草が根を張ることで、土壌内の水分が保湿されますし、雨が降っても土壌流出することがありません。雑草が枯れると微生物によって分解され、微量要素を含んだ肥料成分になって栗の養分となってくれます。」(秦さん)

秦栗園の栗畑に足を踏み入れると、たしかに全体が雑草に覆われている。他の農家からみれば「雑草をあんなに生やして、だらしない!」と言われるかもしれない光景だ。しかし、その草の上を歩くと、土壌がフカフカと柔らかいことにも気づく。草の根が錯綜していることで、土の団粒構造がしっかりとでき、通気性のよい土壌を保てているのだろう。遙か昔、夜久野町は海だったと考えられている。それが30万年ほど前に火山の噴火によって、現在につながる地形が形成され、火山灰土による黒ぼく土中心の肥沃な土質が夜久野町を覆っている。秦さんは自然の循環を利用することで、その肥沃さをよりいっそう高めているのだ。

こうして栽培することで、栽培している「銀寄」、「筑波」、「玉造」といった品種のどれもが大粒で高品質なものになるのである。

時間をかけた低温熟成で
甘さを引き出す

秦さんの丹波栗のおいしさを引き出している重要なポイントが、収穫後の手当である。栗の実には虫が入っていることが多いため、一般の農家は防虫剤の燻蒸(くんじょう)処理や、湯につけて温度を上げる温湯処理を行うことが多い。そうした処理で防虫することは可能だが、味わいが落ちてしまうことを秦さんは嫌った。

秦さんが選んだのは、徹底的な手選別をした上で、虫を死滅させられる低温熟成をすることだ。栗が凍る寸前の氷点下の温度で保管することで、防虫が可能になるが、低温熟成の効能はそれだけではない。

「氷点下で冷蔵することで、栗のでん粉が糖化して甘く、風味が増すのです。−1度の状態で30日程度置いておくことで、丹波栗のポテンシャルを引き出すことができますね」(秦さん)

低温熟成を施した秦さんの丹波栗は、熟成していないものと比べると味わいが驚くほどに違う。収獲後の手当によって、栗のおいしさが一段も二段も上がるのだ。秦さんは品質管理の意味もあって毎日、低温熟成した栗を蒸かして食べるのだが「まったく飽きることがありません」という。自分の生産した栗を飽きずに毎日食べられるというのは、よほどに美味しいと言うことではないだろうか。

就農後、1ヘクタールの栗園にこつこつと栗の木を植え、土壌が豊かになるように草を生やし、微生物の幸う豊かな土質を育ててきた。足踏みをしていた時期もあったが、ここ数年で栗の状態は目を見張るようによくなってきたという。今後の需要拡大も見据えて、冷蔵庫も増設。

「これまではご注文に十分応えられないこともあったのですが、今後はしっかりと増産をしていきます。」

目をキラキラさせる秦さんの姿は、夜久野町の自然に感動して就農を志した時から、変わっていないのではないかと感じさせるものだった。

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